前編:【あの噂の真偽を解説~シリコンバッグ豊胸まさかのトラブル~】
豊胸シリコンバッグが皮膚を突き破って露出する例
交通事故などで強い衝撃を受けた場合、豊胸シリコンバッグが皮膚を突き破って体外に出てきてしまうことがあります。ただ実際には、そのような突発的なアクシデントだけではありません。日常生活を送っているだけなのに、豊胸シリコンバッグが皮膚を突き破って露出してしまうケースがあるのです。 当院に寄せられたお二人のご相談メールをもとに、解説します。
シリコンバッグ豊胸後しこりや痛みに悩むご相談メール
Q1:病院で「豊胸シリコンバッグが胸を突き破って出てきます」と言われました
京都の美容外科で3年前にシリコンバッグ豊胸の手術を受けました。1年くらい経つと右胸の上部にしこり状のものができ、やがて押しても凹まなくなりました。この間、その病院に相談したら「すぐに豊胸シリコンバッグを抜かないと、胸を突き破って出てきます」と言われてしまい、怖くて仕方ないです。
Q2:シリコンバッグ豊胸後、リップリングの角が痛くて不安です
5年前に他院で豊胸シリコンバックを入れた後、すぐに右の胸にリップリング(豊胸シリコンバッグの縁が折れ曲がってしまう現象)ができてしまいました。出産して授乳を始め、しばらくたった去年からリップリング部分が痛くなり、硬く突出している豊胸シリコンバッグの角が手に触れるようになりました。このまま皮膚を突き破ってしまうんじゃないかと不安です。
豊胸シリコンバッグが皮膚を突き破る原因の多くはカプセル拘縮
お二人の場合、もともとの原因は「カプセル拘縮」と考えられます。これは異物を体から外に出そうとする拒否反応のひとつです。カプセル拘縮が起こると、どうして皮膚を突き破ることにつながるのでしょうか?
1、拘縮を起こしたバストはテニスボールのように硬くなり、ギュッと収縮。 2、圧迫された豊胸シリコンバッグが折れ曲がり、角ができる(リップリング)。 3、角が突出すると、その一点に圧がかかる。 4、被膜と皮膚がその圧に耐えられず、やがて突き破られる。 5、破けた部分から豊胸シリコンバッグが露出する。
デニムパンツのひざが薄くなって破けることを想像してください。内側から一点に圧がかかり、外側からの摩擦が続くと、人間の皮膚でも破けてしまうのです。 また、まれな例ではありますが、豊胸シリコンバッグによって血管が圧迫され、血行が滞ってしまうことがあります。すると皮膚が壊死して、最悪の場合、裂けてしまうことも……。 赤みなどの皮膚の変色、しこり、痛みは何らかのトラブルがある証拠です。放置せず、早めに受診することをおすすめします。
生理食塩水バッグが命を脅かした例
大変レアなケースですが、人工物を入れる豊胸は、時に命を左右するほどの深刻な事態に至ることもあります。 2015年、アメリカ・フロリダ州に住むアン・ジーゲンホーンさんという女性が「WEAR‐TV」の取材に応じました。彼女によると、原因不明の体調不良に常に悩まされ、2011年から急激な体重の増加、視力の悪化に加え、ヒリヒリ焼けつくような痛みを体のあちこちに感じていたそうです。さまざまな医師にかかっても病名すらわからず、「死を覚悟した」というアンさん。やっと1人の医師が体調不良の原因を突き止めました。彼女がかつて豊胸手術を受けたとき、胸に入れた生理食塩水バッグがカビだらけだったのです。 このニュースに、豊胸手術のトラブルに詳しいスーザン・コルブ博士がコメントを寄せました。 「私自身、30年前に豊胸手術を受けましたが、8年から15年に一度は安全のために豊胸用のバッグの交換が必要だと感じています。もし怠れば、アンさんのような事態になる可能性はだれにでもあります」
不衛生な豊胸手術が感染症や皮膚の壊死につながることも
アンさんのような例は大変まれですが、手術時の衛生面に問題があった場合、豊胸シリコンバッグに付着した細菌やカビが原因で感染症を引き起こすことがあります。その場合、豊胸シリコンバッグの抜去(摘出)と感染症の治療を急がなければなりません。さらに感染によって皮膚が壊死することもあります。万一、それが広範囲で起こった場合、壊死した組織の切除や皮膚の移植まで必要になる可能性もあります。 アンさんが「命にかかわる」と語ったことは、あながちオーバーではありません。このような事態を防ぐためにも、クリニックの衛生面はしっかり確認しておくことをおすすめします。ただし、スーザン・コルブ博士の言うように、豊胸シリコンバッグは10年前後での入れ替えがまず大前提です。
胸に入れたはずの豊胸シリコンバッグの種類と違っていた例
当院では、シリコンバッグ抜去後には、不純物を取り除いて濃縮した自分の脂肪を注入するコンデンスリッチ豊胸をおすすめしています。人工物を体に入れる豊胸術とは違い、自分の脂肪、つまり本物のバストと変わらないので、安全性と自然な手触りを求める方に圧倒的な支持を受けています。 実はコンデンスリッチ豊胸を受けられる方のうち、3人に1人はバッグ豊胸からの乗り換え組です。そのため、私たちはシリコンバッグだけでなく、生理食塩水、ハイドロジェル(CMC)など、さまざまな材質のバッグの抜去(摘出)を担当してきました。 残念なことに、その中には、医師という職業への信頼を揺るがすようなケースも見受けられます。
生理食塩水バッグのはずが…抜去時に知った真実
他院で生理食塩水バッグを入れる手術を受けたAさん。「万が一破けても体に負担のない生理食塩水なので、安全性が高い」と説明され、決意したそうです。しかしカプセル拘縮を起こし、痛みと将来への不安に耐えかねて、当院で抜去(摘出)と同時のコンデンスリッチ豊胸を希望されました。 取り出したところ、Aさんの体の中にあったのは生理食塩水ではなく、旧式の豊胸シリコンバッグでした。当院ではバッグを摘出(抜去)した後に、どんなバッグがどこの部位にどのように挿入されていてのかをお伝えしています。Aさんにも実際に入っていた豊胸シリコンバッグをお見せしながらトラブルの原因をご説明したところ、「生理食塩水だと聞いていたのに…信じられない」とショックを受けておられました。
考えられる原因は「クリニックの在庫処分」
もっとひどいケースでは、左右で別の種類の豊胸シリコンバッグが入れられていることもあります。このようなトラブルは、なぜ起こるのでしょう? 認識の相違ということもあるかもしれませんが、もうひとつ考えられるのは、「在庫処分」の可能性です。豊胸用バッグは人工物ですから、いずれ劣化し、使用期限が来ます。しかし一度豊胸シリコンバッグを入れたら、通常は数年間取り出すことはありません。しばらくは発覚しないことを見越して、余っている豊胸シリコンバッグから使うという、クリニック都合の判断だった可能性があります。 このような被害を防ぐためにも、ぜひ複数のクリニックでカウンセリングを受け、信頼できるかどうか見極めましょう。その際、きちんと施術するドクターに手術内容を相談して、納得いくまでリスクを確認するようにしてください。カウンセリング時の資料を残しておくことも大切です。
- 知恵まとめ
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- リップリングが起こるとバッグが皮膚を突き破ることがる
- 不衛生な環境で入れたバッグで感染症や皮膚壊死が起こる場合も
- 在庫処分のため、説明とは違うバッグを入れられたケースがある