事件発覚のきっかけと波紋
世界中の30万人もの女性を恐怖のどん底に陥れたこの事件。2015年現在もまだ、解決に至っていません。
胸に入れたシリコンが「マットレス用」!?
発端は2010年のことでした。フランスの保健省が、体内での破裂事故が相次ぐポリ・アンプラン・プロテーズ(PIP)社製の豊胸シリコンバッグの調査に乗り出したのです。するとなんと、マットレスなどに使われる安価な工業用シリコンを使用していたことが発覚。もちろん医療用としては認められていない素材です。
このシリコンバッグで豊胸をした女性が65カ国30万人以上にのぼると報道されると、世界中でパニックが起こりました。一時は世界第3位の豊胸材メーカーだったPIP社は製造禁止を言い渡され、経営破たんしたのです。
裁判所が経営陣に禁固刑
マルセイユでの裁判のすえ、創業者のほか、経営陣4人には禁固1年半~4年の判決が言い渡されました。しかし、被害者は美容目的で豊胸をした女性だけではありません。乳がん手術後の乳房再建手術を受けた女性にまで、再びがんの恐怖を与えた悪質性を考えると、「この刑は軽すぎる」と批判を受けました。
この豊胸シリコンバッグの安全認証を行ったドイツの第3者機関もフランスで訴えられ、一部の被害者や卸売業者に対する損害賠償を命じられています。
豊胸材の影響が疑われる死亡例も
さらなるパニックを引き起こしたのは、ある女性の死でした。2011年11月、このシリコンバッグで豊胸手術を受けた被害者の一人が、胸部の「未分化大細胞型リンパ腫」で死亡したのです。
事件発覚後、仏政府は摘出手術の費用を助成。ところが英政府は……
2011年末、フランス政府はPIP社製シリコンバッグを埋め込んだフランス人女性約3万人に摘出(抜去)をすすめ、「手術費用を政府が負担する」と発表しました。乳がんの再建手術を受けていた女性には、代わりの豊胸材も提供されることが決定。オランダやドイツ、チェコスロバキア、ベネズエラなどが同じような救済策を取っています。
「これで被害者が救われる」と思いきや、4万人もの被害者を抱えるイギリス政府は「摘出(抜去)は必要ではない」と、まったく逆の判断をしたのです。なぜ国によって判断が違ったのでしょう? 続きは後編で詳しくご紹介します。
- 知恵まとめ
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- 世界第3位の豊胸材メーカーが工業用シリコンを使用
- 65カ国300万人以上の女性がこのシリコンバッグで豊胸していた
- 経営陣に禁固刑、安全認証機関にも損害賠償が命じられた